デュラララ!!
みんなはなかよし~年始編~

著者:成田良悟


 これは、過去の物語。

 歪んだ過去の、物語。


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「セルティ、お年玉をあげるから、お年玉頂戴」

『正月早々から何を寝ぼけた事を言っているんだお前は』


 とある年の元日。

 三が日ぐらいは運び屋の仕事を休んで家で寝正月を過ごそうと考えていたセルティは、気分を出す為だけに新羅が用意したコタツに入り、温々と正月番組を眺めていたのだが――

 羽島幽平による新年の池袋探訪番組が始まった所で、新羅が大量のぽち袋を持ってやって来て、奇妙な事を言い出したのである。

「いやあ、思えば僕ってさ、子供の頃、時々セルティからお年玉をもらったりしたじゃない? だから思ったんだ。これからはあげる側にもなろうって。でもセルティからのお年玉という名前のプレゼントも欲しい。それを両立させる為には、お年玉を渡し渡されの関係になるのが一番だと思うんだ」

『そうか。いい初夢をみろよ。メリークリスマス』

「やだなあ、そんな寝ぼけた人を相手にするような雑な対応しないでよセルティ。一年の計は元旦にありだよ? セルティに似合うのは計は計でも『美女連環の計』だと思うんだ。ほら、三国志演義で絶世の美女である貂蝉が色仕掛けで呂布と董卓を仲違いさせたっていう奴さ」

『……一年の計の計って、計略って意味なのか……?』

 訝しむセルティに、新羅は尚も言葉を続けた。

「まあまあ、いいじゃないかそんな細かいこと。とにかく、セルティは僕に色仕掛けをして僕と誰かの仲違いをさせるように仕向けるっていうのはどうかな。でもほら、僕は中途半端な色仕掛けじゃ利かないよ? だから今日から一年かけて色々なタイプの色仕掛けを仕掛けてくださいお願いします。お願いします! ええと、うん、お願いします!」

『なんで三回言った!? 本当に一度病院に行った方がいいんじゃないか? お前……』

 心底呆れつつも、セルティは律儀に話を合わせ始める。

『そもそも、仲違いさせる為の色仕掛けって……お前と誰をだ?』

「考えてなかった! まあ、いいよ僕だけで。寧ろ僕以外の人に色仕掛けとかしないでいいよ」

『とことん身勝手な奴め……。大体お前と仲が良い人間なんて静雄と臨也ぐらいだろう?』


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都内某所 神社周辺 大通り


「やあシズちゃん。奇遇だねぇ、まさか初詣の帰りにバッタリ出くわすなんて」

「……池袋には……二度と来るなって言ったよなぁ……?」

「ここは微妙に池袋から外れてるからセーフだよ」

「手前……何しに来やがった……」

「もちろん初詣さ。ただ、俺が詣でるのは神様じゃなくて、こういう場所に集まる色んな人間の顔、顔、顔さ。そう、表情の裏側にある悲喜こもごもな人生そのものを詣でに来たんだよ。いやあ、色んなタイプの人間が集まるのを目の当たりにすると、今年も頑張るぞって感じで一年分の活力が沸いてくるよね」

「わけのわかんねぇ事を……」

「そんな事より、君みたいな化物が神様に何をお願いしたんだい? どちらかといえばシズちゃんってさぁ、荒神とか祟り神として人身御供とか捧げられる側じゃないのかなぁ?」

「俺は……去年無事に過ごせた感謝と……今年の平穏を願いに来ただけだ……」

「律儀に答えるんだ。シズちゃんて意外と神社とかそういう場所では大人しいよね? その顔で信心深いとかキャラじゃないと思うんだけど? そもそも、願いは叶えられなかったみたいだねえ。平穏を願った直後に俺と顔を合わせるなんて、お賽銭足りなかったんじゃないの?」

「いいや……? 神様は願いを叶えてくれたぜ……?」

「え?」

「手前をここで搗きたてのモチみてえになるまで叩き潰せば、今年一年確実に世界は平穏になるって事だからなぁ……、いーざーやぁーくーんーよぉぉおっ!」


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 近場の神社でそんな騒動が起きている事など知らず、セルティは新羅とぐだついた日常会話を続けていた。

『解った、そういう事なら、今からあの二人に「新羅を潰してくれ」と頼んでくる』

「待ってセルティ! 折原君にそんな事を言った日には。事情をしっかり把握した上で喜んで僕のことを潰しに来るだろうし、静雄が真に受けたら物理的に潰されるよ!?」

 本気で焦る新羅だが、すぐにケロリと顔色を変えて、ぽち袋を十種類ほどセルティの前に並べ立てた。

「まあそれはともかく、お年玉の交換とかしようよ。ほら、ぽち袋もよりどりみどりだよ? なんだったら二人でこれを投げ合ったり羽根付きの羽根代わりにしたっていいぐらいさ。現金のキャッチボールって二人で財産を共有してるのが実感できてきっと楽しいと思うんだ」

『お金で遊ぶな。バチがあたるぞ』

 それこそ子供を叱り付けるような調子で文字を綴るセルティは、心中で溜息を吐きながら。

『だいたい、大人になった後、夫婦とかでお年玉交換をしてるなんて話は聞いたことも無い』

「夫婦!? 今、セルティと僕の関係を『夫婦』って喩えた!?」

『ええい、面倒臭い奴め!』

 小躍りを始めた新羅を影で押さえ込みつつ、セルティはふと考えた。

 ――そういえば、確かに新羅が小さい頃はお年玉とかあげてたかもしれないな……。

 ――運び屋の仕事で稼いだ汚れたお金を私は新羅に渡していたわけか……。

 ネガティブな考えに至ってしまい、セルティは徐々に気分を落ち込ませる。

 ――もしかして、私のせいで新羅は闇医者なんていう非合法な仕事に……。

「え? セルティ? セルティ? なんで落ち込んでるの!?」

 僅かな挙動だけを見てセルティの感情を察した新羅が慌てて声をかけてくれるが、

『すまなかった、新羅。全部私が悪いんだ』

「なんの話!?」

 混乱する新羅の肩をポンと叩きながら落ち込むセルティだったが――そんな彼女の携帯電話から、メールの着信音が鳴り響いた。

『おや……帝人君からだ。……。なんか、静雄と臨也が神社の傍で大暴れしてるらしい。ちょっと止めてくる』

 いつもの調子に戻ったセルティは、ヘルメットを小脇に抱えてコタツから立ち上がる。

「そんなセルティ! 正月早々あの二人の喧嘩に関わる必要なんかないよ! それよりお年玉! お年玉! ここだけの話だけど、僕、セルティから貰ったお年玉は一銭も使わないで全部枕の蕎麦殻の中に入れて寝てるんだよ! 今でも! だから僕の枕は今じゃちょっとした一財産さ!」

『気持ち悪いなオイ!』

「ああ、大丈夫だよセルティ、ちゃんと枕は洗濯したり定期的に変えたりしてるから。中身の現金だけその都度移しかえる感じでね」

『衛生面で批判したわけじゃない!』

 振り払おうとするセルティの足にしがみついた新羅は、そのまま引き摺られつつ尚も懇願の言葉を吐き出した。

「待ってよセルティー。お年玉っていうのは、元々お正月に神様に供えていた鏡餅をさげて自分達で食べる事から来た言葉なんだよ。つまり、神様から人間への賜り物ってわけさ。だから僕にとっての女神であるセルティから貰える物ならなんでもいいんだ! 僕もなんだってお供えするよ! 何が欲しいか言ってよセルティ!」

『欲しい物は、お前の節度だ!』

 次の瞬間、セルティの『影』で作られた直径20㎝ほどの球体が、新羅の頭めがけて落下し、そのまま直撃する。

「あいたっ」

『じゃあ、行ってくる』

 一瞬の隙を突いて新羅をふりほどき、セルティはそのまま部屋から出て行った。

 残された新羅は、自分の顔の横に転がる黒い球体を見て声をあげる。

「えっ!? まさかこれで『落とし球』とかいう幼稚園児みたいな小ネタで誤魔化すつもりかいセルティ!? ……まあ、でも、セルティの作ったものなら用途の解らない球体でもいいかな別に……へへへ……」

 頬を染めながら、黒い球体をそっと抱きしめる新羅。

 すると次の瞬間、球体が割れ、中から小さな箱が現れた。

「え?」

 新羅がその箱を開けると――中には、メッセージカードが添えられた手焼きのクッキーと思しきものが入っている事に気付く。

 メッセージカードには、ただ一言。


【今年も宜しくな、新羅。セルティより】


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 次の瞬間、新羅部屋から驚喜乱舞する新羅の叫びがマンション前の道路にまで響き渡ったのだが、セルティは聞こえぬフリをしたまま愛馬のシューターを走らせた。

 ――まったく、もうちょっと節度を持てっていうんだ。……馬鹿新羅。

 そんな事を考えながら、冬の風の合間を通り抜ける。

 ほんの少しだけ、心中で肌を火照らせながら。

 ――……こっちから渡そうとしていたのに、催促されて渡したみたいじゃないか。


 セルティも新羅も、まだ知らない。

 この一年が、二人にとって想像以上に激動の年になるという事を。

 そして、そうした街の流れが、二人に何をもたらすのかどうなるのかという事も――

 この時点では、誰も預かり知らぬ事だった。


 恐らくは、池袋の街でさえも。


『デュラララ!!×2 結』へ続く!